古代エジプト語研究[0-2]研究法(その3):John Bryan Callender (1975) Middle Egyptian. Malibu.
John Bryan Callender (1975) Middle Egyptian. Malibu.
本書はJohn Bryan Callender (1940-87) による著作の1冊。彼の著作と
しては Studies in the Nominal Sentence in Egyptian and Coptic. 1984.
の方が有名だが、彼が35歳のときに出版した本書をここで取り上げたい。
本書の内容を一言でいえば、一般言語学からみたエジプト語の記述、
つまり言語学的エジプト語研究の実践書となる。
一部においてエジプト学的な用語が用いられている箇所があるものの
本書の中心部分では言語学の概念や用語が貫かれている。
それを端的にあらわしているのが、次のような本書の構成であろう。
0. Background on Egyptian [pp.1-3]
1. Present Grammar: Introduction [pp.4-6]
2. Phonology [pp.7-13]
3. Morphology and Morphophonology [pp.14-60]
4. Syntax [pp.61-114]
5. Sample Text [pp.115-122]
6. Appendices [pp.123-135]
7. Index [pp.136-139]
8. Bibliography [pp.140-143]
筆者自身、「エジプト学に慣れている読者は間違いなく、本書の構成に対して
標準的な文法書とは異なると感じることであろう」と断っている。
エジプト語の記述の中心は、2. Phonology, 3. Morphology and Morphophonology,
4. Syntax であり、その記述内容の実践が 5. Sample Text で示されている。
また、構文を中心にまとめた 6.3 Table of Predicate Constructions の内容
も実にすばらしい。
1. Present Grammar において、筆者は対象とする読者を表明している。
その1つは「言語学の手法や用語に慣れている一般言語者」であり、
もう1つは「エジプト学者」である。しかし、ある学説を巡っては、「エジプト学に慣れた
読者は困難を覚えるかもしれない」と述べられており、本書の態度は、ある意味で
当時のエジプト学者に冷たい。それは、本書が脱エジプト学的エジプト語研究を
志向しているからである(より正確に言えば、当時はGardiner文法からの脱却)。
このようにしてまで脱エジプト学的エジプト語研究を志向するのは、
「本文法書の目的の1つはエジプト語に対する我々の理解を提示することにあり、
そのためには、多くの場合において、伝統的な範疇を放棄しなければならない」
からである。
エジプト学の伝統に拘ることが重要なのではなく、言語の理解こそが重要である。
この明確な態度の表明に敬服する。
中エジプト語文法といえば Gardiner の Egyptian Grammar が圧倒的な影響力を
持っていた当時において、Polotsky の学説をいち早く取り入れ、かつ言語学的な
視点で中エジプト語を記述した本書の学史上の意義は、実に大きい。
Callnder が若くしてこの世を去ってしまったのは学界にとって大きな損失であった。
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