Sterling, Gregory E. (2008)
Coptic Paradigms: A Summary of Sahidic Coptic Morphology.
Peeters.
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Table of Contents
コプト・エジプト語の勉強を始めてすぐにわかることは、文法的な形態変化が
少ないということである。特にギリシャ語やラテン語などの屈折語を扱っている人
にとって、コプト・エジプト語の語形変化は、無いに等しいものだと思われる。
なので、コプト・エジプト語の場合、数少ない文法的な形態素(morphem)と基本語彙
そして基本文型を覚えれば、楽に読めるようになる。
まさにそのような状況を見据えたうえで、本書は、語彙、基礎的な形態論(Morphology)、
文型を95ページにまとめたものである。
あるいは、本書の内容を別の見方から捉えると、試験前の暗記ペーパーとして覚えるべき
内容をまとめたもの、と言い換えることができる。
この点については著者自身が充分に心得ており、本書が文法書でないことを導入で
明言し、別の文法書を紹介しているほどである。ということで、本書はコプト・エジプト語の
基礎文法を学習している学生が、知識の整理に使うには便利な1冊かもしれない。
とはいうものの、次の3点において、本書の利用には注意が必要である。
(1)文型に対する訳が掲載されていない
もっとも、文型といっても「1st perfect=afswTm」というような内容であり、そもそも
これが理解できないようでは、本書を読むための基礎レヴェルに到達していない
ということになる。したがって、文型の訳がないということは、それほど本質的な問題
ではない。
(2)解説の重複が多い。
重複そのものは別に問題ではないが、要点整理を主眼とする本書でダラダラと重複
箇所が続くのは、要点の提示方法が熟考されていないとの印象を受ける。
特に、Part Four: The Verbal Systemで重複箇所が多い。たとえば、Verbal Patterns
and Conjugations p.52 ~ The Conversion System p.68 までの内容が、これに続く
Full Paradigms pp.69-95 で繰り返されている。提示の仕方が異なるものの、
内容はほぼ同じであり、どちらか1つがあれば、それで良いように思う。あるいは
Verbal Patterns and Conjugations を3人称男性単数形の代名詞or名詞を利用した
簡便な雛形で提示すれば、すっきりとするであろう。とはいうものの、重複の多さは、
サービス精神の裏返しとして、許容される。
(3)Polotsky体系の把握が不十分である
2008年の著作であり、しかもCopticに関する研究書を何冊も出版しているPeetersから
出版された本だけに期待していたが、実のところPolotsky体系の把握が不十分である
ので、正直、驚いた。
たとえばnefswTmの理解は、Polotsky体系の前後で次のようになっている。
nefswTmに対する理解
Polotsky以前 imperfect
Polotsky以後 preterit first present
imperfectは未完了であるが、preteritの方は過去である。
完了が過去に訂正されるのは理解できるが、未完了が過去になるのは、用語の上で
大きな変更だと言える。
ここで明言しておくが、コプト・エジプト語の研究において、imperfectとpreterit first presentは、
同じ文型に対する異なる名称である。
しかし本書では、preterit first present(=imperfect)の変化表をp.81で掲載する一方で
続くp.82でimperfect(=preterit first present)の変化表を掲載している。
preterit first present(=imperfect)という立場を表明したのであれば、
imperfect(=preterit first present)を掲載する必要はないのであり、このような重複は、
両者が同じものを指しているということを著者が理解していないのではないか、
との疑念を抱かせる。いや、そもそもimperectというghost formを採用している時点で
かなり古めかしい。
本書が1980年代に出版された本であればまだ理解できるが、2008年になって出版された
著作でこの程度の水準では、Copticの著作としてはかなり厳しい。ということで、
(3)はかなり大きなマイナス要因である。
本書の内容程度であれば、
Shisha-Halevy, Ariel (1988)
Coptic Grammatical Chrestomathy.
Orientalia Lovaniensia Analecta 30.
Peeters.
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のTables pp.167-201 の方がよほど良く、Shisha-HalevyのTablesは上記の3つの問題点
をすべてクリアした内容になっている。
ということで、かなり辛口だが、Coptic ParadigmsはPolotsky以前の著作だと言わざる得ない。
学問の世界は知識を探求する場であるはずだが、実のところ学者も人の子であり、
たとえ新説が正しいとわかっていても、自分が教わった古い体系から抜け出すことが
出来ないことがある。
言い換えれば、学問以前に存在している様々な要因に縛られた状態で学説が作られるという現状がある。
だとすれば、我々は、学問以前に存在している様々な要因を把握しない限り、研究書の
有意義な「読解」が出来ないのではないか。